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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)4617号 判決

原告

シャスティーン・ビー・ヴィデーウス

右訴訟代理人弁護士

露木脩二

大川真郎

戸谷茂樹

被告

学校法人関西外国語大学

右代表者理事

谷本貞人

右訴訟代理人弁護士

俵正市

杉山博夫

小川洋一

主文

一  被告は、原告に対し、金五九三万五六八〇円及びこれに対する昭和六二年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、教育基本法及び私立学校法に基づき学校を設置することを目的とする学校法人であり、肩書地に関西外国語大学及び同短期大学を設置している。

2  原告は、昭和四八年四月一日から引き続き昭和六二年三月三一日まで一四年間被告に雇用され、同大学付属国際文化研究所(以下、「研究所」という。)の助手、講師を経て、昭和五三年一〇月一日から助教授の地位にあったが、昭和六二年三月三一日に任意退職した。

3  原告が採用された昭和四八年四月一日当時の被告の退職金規定(〈証拠略〉)によれば、専任教員は、退職日の前日の本俸月額に在職期間に応ずる支給率を乗じた額の退職金の支払を受けることができ、在職一四年間に応ずる右支給率は、一四・四とする旨定められていた。

4  原告は、専任教員として任用された者であり、その退職時の本俸月額は、四一万二二〇〇円であるので、退職金として、右金額に前記の一四・四を乗じた五九三万五六八〇円の支払を受ける権利を有する。

なお、原告の雇用に博士論文を完成するまでという条件が付されたことはないし、また、被告の「勤務に特例のある教員任用規程」(以下「特任教員任用規程」という。)一〇条二項には、特任教員には、退職金を支給しない旨の定めがあるが、原告は専任教員であるのでその適用はなく、また、右規程は、昭和五八年四月一日から施行されたのであるから、昭和四八年四月に採用された原告に適用のないことは明らかである。

5  よって、原告は、被告に対し、右退職金五九三万五六八〇円とこれに対する退職の日の翌日である昭和六二年四月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実中、原告の月割賃金が四一万二二〇〇円であることは認め、その余は争う。

3  被告の主張

(一) 原告は、専任教員として任用された者ではなく、特任教員に準ずる者として任用された者である。

(1) 被告は、教員の採用に当たり、専任教員、特任教員及び非常勤教員に区分していた。

専任教員は、研究活動、学生の指導相談、教育を担当する教員であり、教授会に出席し、責任担任コマ数を六コマ以上担当し、校務を分掌するほか、学生相談、学生の課外活動の指導等の職務を行う。そして、外国人の専任教員については、退職金を個別契約で定めていた。

これに対し、特任教員は、主として教育を担当する教員であり、教授会出席の義務はなく、校務を分掌しないなど専任教員とは異なる職務内容であった。また、その任用も、契約期間一ないし二年とし被告が定める約定で契約を締結する方法が採られ、退職金は支給しない扱いである。

被告は、専任教員又は特任教員を任用する際には、卒業証明書、学位記、論文、著作物、教歴証明などを提出させた上、教授会理事会で厳正な審査をしている。

(2) 被告の就業規則及び退職金規定においては、専任教員については退職金を支給するが、特任教員、その他の身分に属する者(研究員等特任教員に準ずる者を含む)については、退職金を支給しない旨を定めていた(特任教員任用規程一〇条二項)。

(3) 被告は、開学以来特任教員を(1)の条件で任用し、昭和四七年三月九日の教授会においてもこれを確認したが、昭和五八年四月一日、これらの扱いを整備して特任教員任用規程を定めたものであり、原告の採用についても、右規程と同一の条件が適用になる。

(二) 被告は、原告の指導教員であるコペンハーゲン大学日本学主任教授オロフ・リデイン博士より、研究所所長神津東雄教授を通じて、原告が博士論文を完成するまで被告において研究の便宜をはかってもらいたいとの申出を受け、原告を採用したものである。したがって、原告は、暫定期間による恩恵的雇用による研究員、すなわち、特任教員に準ずる者として任用された。

なお、被告は、昭和五七年四月、私立大学退職金財団が業務を開始した際、原告を加入させたが、これは、原告が雇用以来九年を経過し、将来、専任教員として任用される可能性があったので、その場合の退職を想定して加入の手続を取ったものである。

第三証拠

記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  争いのない事実

被告は、教育基本法及び私立学校法に基づき学校を設置することを目的とする学校法人であり、肩書地に関西外国語大学及び同短期大学を設置していること、原告は、昭和四八年四月一日から昭和六二年三月三一日まで一四年間被告に雇用され、被告の研究所の助手、講師を経て、昭和五三年一〇月一日から助教授の地位にあった者であるが、昭和六二年三月三一日に任意退職したことは当事者間に争いがない。

二  原告は、専任教員か否か

原告が採用された昭和四八年四月一日当時の被告の退職金規定(〈証拠略〉)によれば、専任教員は、退職日の前日の本俸月額に在職期間に応ずる支給率を乗じた額の退職金の支払を受けることができることは当事者間に争いがないところ、被告は、原告が特任教員に準ずる者として任用された者である旨を主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告代表者が昭和六〇年四月五日に作成した法務大臣宛の身元保証書(〈証拠略〉)には、原告が被告の専任教員として採用された者である旨の記載があること、研究所所長神津教授が昭和五四年四月一九日に作成した原告に関する推薦書にも、原告が研究所の研究員で専任の助教授である旨の記載があること(〈証拠略〉)、被告は、特任教員の契約期間が一年ないし二年であると主張しているところ、原告の契約期間は、昭和五四年四月一日以降三年間の契約であること(〈証拠略〉)を認めることができ、右の事実と、被告は、昭和五七年四月、私立大学退職金財団が業務を開始した際に原告をこれに加入させる手続を取ったことを自認すること、被告は、原告を加入させる手続を取ったのは、原告を将来専任教員として任用する可能性があったのでその場合の退職を想定したものである旨主張するが、成立に争いのない(証拠略)によれば、被告の特任教員任用規程では、特任教員に対しては退職金を支払わない旨を定めていたのであるから、仮に、被告の主張するように原告が特任教員に準ずる者として任用されていたのであれば、専任教員に任用された時点で加入の手続を取れば足りるはずであり、被告の右主張は、不合理な点のあることが否定できないことを総合考慮すると、原告は、専任教員として任用されたものであることが認められ、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  原告の退職金請求

1  二の認定事実によれば、原告は、被告に対し、前記の退職金規定に基づき退職日の前日の本俸月額に在職期間に応ずる支給率を乗じた額の退職金の支払を請求することができる。

そして、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告の退職日の前日の本俸月額は、四一万二二〇〇円であったことが認められ、原告の在職期間一四年に応ずる右支給率が一四・四であることは当事者間に争いがないので、原告は、被告に対し、四一万二二〇〇円に一四・四を乗じた五九三万五六八〇円の退職金を請求することができるものというべきである。

2  被告は、外国人の専任教員については、個別の契約において退職金を定めていた旨を主張し、前記の退職金規定が原告に適用されない旨を主張するようであるが、原、被告間の雇用契約において退職金額が約定されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、成立に争いのない(証拠略)によれば、退職金規定において、外国人の専任教員について、その適用を除外する旨を規定していないことを認めることができるので、被告の右主張は採用できない。

3  なお、成立に争いのない(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、退職金規定を昭和五四年一月と昭和五九年一月に改定して、原告が退職した昭和六二年三月三一日当時は、外国人専任教員については二の退職金の算定方法によらず、「私立大学退職金財団退職資金交付業務方法書」の規定に基づいて算定する旨定めたこと、右改定後の退職金規定によれば、原告の退職金額は、退職時の標準俸給月額である二七万円に在職期間一四年に応ずる支給率である一四・四を乗じた三八八万八〇〇〇円になることが認められ、三1に判示したところに照らせば、退職金規定の右変更は、原告にとって不利益なものであるというべきである。

しかし、右改定前の退職金規定は、就業規則としての性格を有しているところ、就業規則を変更し、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、右変更が合理的なものである場合を除き、原則として許されず(最高裁昭和四〇年(オ)第一四五号同四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三四五九頁)、就業規則としての性格を有する退職金規定を労働者に不利益に変更することも、同様に、右変更が合理的なものである場合を除き、原則として許されないものと解すべきである(最高裁昭和五六年(オ)第一一七三号事件同五八年七月一五日第二小法廷判決・裁判集民事一三九号二九三頁)。そして、本件においては、前記のような退職金規定の変更に合理性のあることの主張立証はないのであるから、原告の退職金の算定について右の変更後の退職金規定を適用することはできないものというべきである。

四  結語

以上の次第で、原告の請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 大竹たかし 裁判官倉地康弘は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 松山恒昭)

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